アメリカで注目されるSPAC(特別買収目的会社)とは?徹底的に解説

SPACは、アメリカで認められている、未公開企業が上場する際の手法の1つです。日本ではまだ認められていませんが、IPO(新規上場)の際にコストや時間を節約できることから、近年注目を集めている手法です。 従来のIPOよりも簡素に上場できることから、アメリカでのSPACによるIPO件数は、2019年に比べ、2020年では4.2倍にまで増えています。 では、なぜSPACが注目されているのでしょうか?本記事では、SPACについて徹底解説していきます。概要、歴史、従来のIPOとの違いから今後の展望まで順に紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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SPAC(特別買収目的会社)とは

SPAC(スパック)はSpecial Purpose Acquisition Companyの略で、直訳すると「特別買収目的会社」となります。

名前の通り、SPACは買収を目的として設立される会社です。本来、企業が上場するためには多額のコストや時間がかかります。しかし、SPACを使えばコストや時間を抑えて上場できるため、近年アメリカで注目されている手法です。

SPACの仕組み

会社が上場するためには、IPO(新規公開株)を行い、株式を発行することになります。しかし、そのためには監査法人や証券会社の厳しい審査を乗り越えなければなりません。また、多額の費用と労力もかかります。

一方、SPACは事前に会社を設立し、既に存在する企業を買収するため、費用と時間のどちらも省くことが可能です。

まず、設立者が自己資本を投じて会社を設立し、SPACとして上場します。この時点では、何も事業を行わないペーパーカンパニーです。

その後、投資家から資金を調達し、その資金を使って未公開会社の買収を行います。買収した未公開会社と合併することで、買収された未公開会社が事業を営んでいる存続会社となり、SPACも上場会社となるのです。

このように、SPACは自社事業がない会社が上場する手段であるため、「裏口上場」「空箱」と呼ばれることもあります。

SPACの歴史

株式取引の規制が今ほど厳しくなかった1980年代のアメリカにおいて、SPACのような「ブランクチェックカンパニー」と呼ばれる会社は不正の温床でした。調達した資金で自分が出資している会社を高額で買収したり、調達資金の私的流用などが行われたりしました。

そのため、米国証券取引委員会がブランクチェックカンパニーの規制を強化。情報開示の充実や、調達資金の預託の義務付けなどを定めました。その後、1993年に投資家保護の枠組みを改善した、現在のSPACに近い形が開発されたのです。

SPACのメリットとデメリット

SPACにはコストや時間を短縮して上場できたり、投資家保護の規定があったりと、買収される企業と投資家の双方にメリットがあるのが特徴です。

一方、未公開株式へ投資することになるため、一定のリスクがあるというデメリットも存在します。ここからは、SPACのメリット・デメリットについて、詳しく解説していきます。

メリット

買収される企業のメリットとしては、上場の際のコストや時間を大幅にカットできることです。

従来のIPOは、審査が厳しく行われます。特に設立して日が浅く、実績も少ないスタートアップ企業の場合、一般企業に比べるとIPOはより難しくなります。特に近年は新型コロナウイルス感染症の影響によって、IPOが難しくなっていました。

SPACであれば、審査もそれほど厳しくなく、時間も大幅に短縮してIPOできます。また、買収されることによりまとまった金額を調達できることも、買収される側の企業のメリットです。

投資家側のメリットは、投資家保護の規定があるため、投資金額を回収できる点です。

SPACでは、未公開企業の買収に失敗した場合は、投資した金額はほとんどが投資家に返還されます。そのため、比較的ローリスクで投資ができるというメリットがあります。

また、投資の費用を抑えられるという点も魅力的です。元々、未公開株式は機関投資家など、多額の資金を持っていないと投資できないものでした。しかし、上場企業であるSPAC経由で投資すると、少額の資金でも未公開株式に投資できるようになります。

デメリット

SPACのデメリットとして挙がるのが、「未公開株式への投資リスク」です。

SPACは買収先の企業についてしっかりと精査しますが、買収先が100%安全とは言い切れません。

例えばアメリカの新興自動車メーカー「ニコラ」は、2020年6月にSPACを使いNASDAQに上場。電気自動車の「テスラ」を想起させる社名や、GMとの資本提携や技術提携の発表により、株価は8倍に跳ね上がりました。時価総額は3兆円を超え、一時はフォードの時価総額を超えるほどでした。

しかし、ニコラ株を空売りしている投資調査会社が、ニコラの宣伝に虚偽があるというレポートを発表。創業者兼会長のトレバー・ミルトン氏が辞任したことにより、ニコラ株は大暴落したのです。

このように、SPACで買収される企業は情報開示が不十分な場合や、SPACに対する法整備が整っていないというリスクがあります。

SPACが注目される理由

こうしたメリット・デメリットのあるSPACは、近年アメリカで注目を集めています。2020年の7月〜9月のIPOのうち、市場から調達した資金の約半分をSPACが占めているほどです。

では、なぜSPACはそこまで注目されているのでしょうか?ここからは、その理由について解説します。

注目される理由

SPACが注目される理由として、従来のIPOを選択しない企業が増えたことがあります。

メリットでも述べたように、SPACは従来のIPOと比べて、コストや時間を節約できます。そのため、SPACでの上場を選択する企業が増えてきているのです。

1990年代後半から2000年代にかけてはIPO市場が好調だったため、SPACはあまり使われてきませんでした。

しかし、2019年にアメリカで行われたSPACによるIPO件数が59件だったのに対し、2020年は248件。金額ベースでも、2019年には136億ドルだったのに対し、2020年には834億ドルと、大幅に増加しています。(注1)

また、不正の温床のイメージが強かったSPACに著名人が参加し始めたことで、SPAC自体のイメージが改善されたことも考えられます。新型コロナウイルス感染症の影響により、従来のIPO計画が破綻してしまった企業がSPACでの上場に向かったことも一因でしょう。

ソフトバンクもSPAC設立へ

アメリカで注目されているSPACですが、日本ではまだ導入されていません。しかし、2020年12月、ソフトバンクグループがSPACのIPOを米当局に申請しました。

ソフトバンクグループの動向は日本でも報道されており、今後注目される可能性は大いにあります。

従来のIPOとSPACのIPOの違い

SPACのメリットとして、コストや時間を節約できることを説明しました。しかし、SPACでのIPOと従来のIPOには、それ以外にも様々な違いがあります。

ここでは、より具体的に従来のIPOとの違いを解説します。

従来のIPO

従来のIPOの場合、発行した株を買ってくれる機関投資家の存在が重要です。そのために、発行会社は自社の事業を投資家にプレゼンする「ロードショー」をしなければなりません。

また、たとえ機関投資家が見つかったとしても、上場審査を通過するのは容易ではないでしょう。証券取引所としては詐欺まがいの会社を上場させることはできないため、厳しく審査されます。

さらに、有力な証券会社は有力な投資家とパイプがあることも多く、公示価格の設定の際には証券会社の意向が反映されてしまう可能性も大いにあります。

SPACのIPO

これに対しSPACのIPOであれば、事業を持っていないため、投資家に事業のリスクを説明する必要がありません。上場審査も、事業を持っている会社より簡単に済ませることができます。

また、SPACのIPOには、「買収には一定数以上の株主の同意が必要」というルールがあります。これにより、資金の私的流用などを防ぐことが可能です。

SPAC上場は今後日本で認められる可能性も

日本では、まだSPACは認められていません。しかし、ソフトバンクグループが米国でSPACのIPOを申請したこと、日本もアメリカと同じように従来のIPOプロセスが複雑なことから、SPACが認められるようになる可能性は十分にあります。

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引用(参考)
注1:SPACリサーチ

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