自社が競争する領域とは?コトラーの「競争地位戦略」で立ち位置を定める

ビジネスの世界では、各業界でライバルが熾烈な競争を繰り広げています。ライバルが数多くいる業界の中で生き残っていくには、各企業は効果的な戦略を立案・実行しなければなりません。 アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが提唱した「競争地位戦略」は、その戦略目標を立てるための理論です。 本稿では、競争地位戦略が分類する4つの地位や、各地位に位置する企業が採るべき戦略、特定の業界における分類事例について解説します。

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競争地位戦略とは

競争地位戦略とは、市場シェアの大小に着目し、それぞれの競争地位に応じた企業の戦略目標を提示する理論です。1980年にアメリカの経営学者であるフィリップ・コトラーが提唱して以降、経営戦略の重要な要素として数えられています。

市場における競争地位は、以下の4つに類型化できます。

  • リーダー
  • チャレンジャー
  • ニッチャー
  • フォロワー

どの企業であっても、各業界でいずれかの競争地位に分類され、地位によって採るべき戦略が変わります。そのため、自社がどの地位に該当するのかを意識しつつ、それぞれの特徴や採用すべき戦略について見ていきましょう。

リーダーの特徴&採用すべき戦略は?

リーダーは、業界のシェアNo.1の企業です。トップ企業としての特徴や戦略とはどのようなものでしょうか。

リーダーの特徴

リーダーの地位にいる企業は、高いシェアや潤沢な経営資源が特徴で、他社の追随を許さず業界をけん引する存在です。

最大のシェア・利潤・企業イメージを持つ一方、これらを維持しなければならないトップの悩みもあります。

「需要拡大」で事業推進

リーダーの座を維持するための戦略として、シェアの拡大を狙うより、需要拡大を狙う方が効果的とされます。それは需要を拡大して一番得をするのは、その市場における一番手のリーダーであるからです。

需要拡大のためには、既存市場に存在する商品・サービスを別の用途で異なる市場へ展開したり、消耗品の類であればキャンペーンを打ち出して一時的に需要を増加させたりするなどの方法があります。

「非価格対応」で市場規模維持

非価格対応とは、下位企業の価格競争に安易に応じない姿勢です。仮にすべての企業が10%の割引を一斉に行った場合、利益の低下率が最も大きくなるのは売上規模の大きいリーダーとなります。市場規模を維持するには、非価格対応でどっしりと構えましょう。

「同質化」でさらなる市場シェア拡大

同質化とは他社の差別化した新製品やサービスを模倣した製品やサービスを出すことにより、他社の差別化を無効にするものです。

同質化競争は、経営資源の質・量ともに豊富なほうが有利に働くため、リーダー企業に圧倒的有利であり、同質化することでさらに市場シェアの獲得を図ることができます。

チャレンジャーの特徴&採用すべき戦略は?

チャレンジャーは、リーダーのポジションを目指す、業界でNo.2やNo.3に位置する上位企業です。

チャレンジャーの特徴

チャレンジャーの地位にいる企業は、リーダーと比べて経営資源の量・質やシェアが劣るのが特徴です。

上位シェアを誇る企業として業界トップのリーダーに挑戦する立場ですが、規模を活かした戦略ではリーダーに勝てる見込みは少ないため、次のような戦略でトップシェア獲得を目指します。

「差別化戦略」で他社より優位に

チャレンジャーの基本戦略は、リーダーやライバルにあたる他のチャレンジャー企業との差別化です。

例えば、リーダーを含む他社には真似できず、かつニーズが集まるような商品・サービスを開発できれば、競争でアドバンテージを獲得することが期待できます。

関連記事:アドバンテージマトリクスとは?戦略を立案するには業界特性の把握から

「シェア取り込み」で拡大狙う

チャレンジャーは、リーダーには及ばないとしても、その市場の上位シェアを担う企業です。

自社より小さい規模の企業は多く存在するため、こうした企業からシェアを奪い、リーダーのシェアを超えるまで拡大するという手段も有効です。

ニッチャーの特徴&採用すべき戦略は?

ニッチャーは、リーダーやチャレンジャーの地位を目指すことなく、業界内のニッチな領域に特化した事業を独自に推進する企業です。

ニッチャーの特徴

ニッチャーの地位にいる企業は、リーダーやチャレンジャーと比べて経営資源の量・質やシェアは圧倒的に劣ります。最大の特徴は、他の地位にいる企業と競争しないという点です。

「集中戦略」で独自の戦い

ニッチャーの基本戦略は、他社が参入してこないようなニッチな領域にターゲットを絞り、そこに経営資源を集中的に投下する「集中戦略」です。

集中戦略によって、優れた技術・ノウハウやビジネスの仕組みなどを独自に構築し、取り扱う商品・サービスを限定的にすることで、専門化による高収益を狙います。

フォロワーの特徴&採用すべき戦略は?

フォロワーは、チャレンジャーのようにリーダーを目指すこともなく、ニッチャーのように特定領域に集中することもない立場の企業です。

フォロワーの特徴

フォロワーの地位にいる企業は、経営資源の量・質やシェアがチャレンジャーよりも低く、ニッチャーのように際立った独自性がないのが特徴です。

競争地位の種類としてはフォロワーが市場内で一番数が多く、ライバルが多いという環境で生き残っていく必要があります。

「トップ企業の模倣」で生き残り

フォロワーが生き残るためには、莫大なコストをかけて新規事業を開拓するよりも、リーダーやチャレンジャーといったトップ企業の事業内容や商品・サービスを模倣することで、経営プロセスを合理化する戦略が効果的です。

価格競争を積極的に仕掛けつつ、模倣の継続によって経験・ノウハウを蓄積し、いずれはオリジナリティを生み出すことができるかもしれません。

競争地位戦略の事例は?ふたつの業界を例に紹介

ここまでで解説した各競争地位について、実際の企業はどのように分類されるのでしょうか?

コンビニと自動車メーカーのふたつの業界を例にご紹介します。

コンビニ業界

コンビニ業界の代表的な企業は、以下のように競争地位ごとの分類ができます。

  1. リーダー:セブンイレブン
  2. チャレンジャー:ローソン、ファミリーマート
  3. ニッチャー:セイコーマート、ミニストップ
  4. フォロワー:スリーエフ、サークルKサンクス(いずれも現存しません)

まず、コンビニチェーンの御三家として知られるセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートを分類すると、業界内で売上トップシェアを誇るセブンイレブンがリーダーに位置します。それを追う形となるローソンとファミリーマートはチャレンジャーです。

ニッチャーは、北海道地方を中心に店舗展開を行っているセイコーマートや、イートインに付加価値を置いたミニストップが該当するでしょう。

コンビニ業界で現存するフォロワーはほとんど残っていません。過去にスリーエフやサークルKサンクスといったコンビニがありましたが、スリーエフはローソンと、サークルKサンクスはファミリーマートと経営統合しました。

参考:世界でも類を見ない約5,000店のブランド転換を全社一丸で実施! サークルK・サンクスからファミリーマートへのブランド統合完了へ ~「One FamilyMart」として、これからも地域に密着した店舗づくりを進めてまいります~
参考:「ローソン・スリーエフ」へのブランド転換に関する事業統合契約の締結について|ローソン公式サイト
関連記事:経営統合とは?間違いやすい合併との違いやメリット・デメリットを解説

自動車メーカー業界

自動車メーカーの代表的な企業は、以下のように競争地位ごとの分類ができます。

  1. リーダー:トヨタ自動車
  2. チャレンジャー:日産自動車、ホンダ
  3. ニッチャー:スズキ、スバル
  4. フォロワー:マツダ、三菱自動車

まず、自動車メーカーで群を抜いて高い売上を出し、国際的にも多くの販売チャネルを持つトヨタ自動車がリーダーに位置します。

日産自動車とホンダはチャレンジャーとして、各社研究開発や独自のブランド展開を行うアプローチを仕掛けています。

ニッチャーは、軽自動車に特化したスズキや、水平対向エンジン(ボクサーエンジン)という独自のエンジン機構を採用するスバルが該当するでしょう。

マツダや三菱自動車も独自のブランド路線で事業を推進していますが、市場全体で見ればフォロワーの特徴に当てはまります。

自社の競争地位を把握し、適切な戦略立案を

市場には複数の企業が参加し、どの業界においてもシェア率を争う構図ができます。シェアを獲得できなかったからといって、その企業が事業に失敗するわけではありません。

本稿で解説したように、市場には4つの競争地位があり、どの企業もいずれかに分類されます。そして、各競争地位によって採るべき戦略は変わり、成功や生存のためのアプローチは企業の数だけあるのです。

自社の立ち位置を把握し、それに応じた適切な戦略を打ち出すことを忘れないようにしましょう。

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