IoT市場規模の今後は?成長が期待される分野やセキュリティ面での課題を解説

生産工場を自動化するファクトリーオートメーションや、医療・介護・健康の分野に革命を起こしつつあるデジタルヘルスケアなど、IoTによるイノベーションが相次いでいます。 注目を集めるIoTの市場規模は、今後どのように変化していくのでしょうか。また、IoTビジネスへ参入するにあたって、どんな課題があるのでしょうか。本記事では、IoT市場の展望をデータに基づいて解説します。

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世界のIoT市場規模は2019年に7450億ドルに

米IDCによれば、世界のIoT市場規模(支出額)は、2019年の時点で7,450億ドル(約80兆1,937億円)と推計されています。2018年の市場規模は6,460億ドル(約69兆5,371億円)であり、前年比15.4%の成長です。

業種別に市場規模をみると、IoTへの支出額が多いのは、組立製造(1190億ドル)、プロセス製造(780億ドル)、運輸(710億ドル)、公共・公益(610億ドル)の4つの業種でした。

今後も、生産ラインへのIoT活用を進める製造業や、物流システムにIoTを導入する運輸業、電気・ガス・水道の需給をIT技術でコントロールするスマートグリッドやスマートメーターの普及が進むエネルギー産業で、IoTへの支出額が増加するとみられます。

米IDCの試算では、2022年には市場規模が1兆ドル(約107兆円)の大台に乗ると予測されています。年間平均成長率(CAGR)は2桁で推移するとみられ、IoT市場は拡大傾向にあります。[注1]

2020年代には約450億台のIoT機器がインターネットにつながる

次はIoTデバイスの出荷台数のデータをみてみましょう。総務省の「令和元年版 情報通信白書」によれば、2014年には165.6億台だった出荷台数は年々伸びつづけ、2019年時点で253.5億台が出荷されています。

2019年以降は市場の飽和の影響が懸念されるものの、2021年以降は300億台を超えるIoTデバイスが出荷されると推計されており、販売実績の観点からも成長傾向にあります。

出荷台数の増加が大きいのは、インターネットに常時接続できるコネクテッドカーが好調な「自動車・輸送機器」や、デジタルヘルスケアの巨大市場を抱える「医療」の分野です。[注2]

支出額の観点からも、IoTデバイスの出荷台数の観点からも、IoT化の潮流は拡大をつづけており、身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる社会が到来しつつあります。

IoTの成長を支える2つの通信技術

このようなIoT市場の活発な成長を支えているのが、次世代型の通信技術です。IoTデバイスの出荷台数の増加にともなう通信量の増加や、通信ネットワークのニーズの多様化に対応するため、「5G」、「LPWA」と呼ばれる2つの通信技術が注目を集めています。それでは、この2つの通信技術の特徴を解説します。

通信技術①:2020年に本格投入された「5G(第5世代移動通信システム)」

5G(第5世代移動通信システム)は2020年春から商用化された通信技術で、最大20Gbpsのモバイルブロードバンド通信が可能です。

無線区間での遅延は1ミリ秒(ms)以下というURLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)の要件を満たしており、高い信頼性が必要な自動運転車、ICT建機、産業ロボットへの応用が期待されています。

また、1平方kmあたり100万個のデバイスと同時接続できる性能(mMTCという)を持ち、都市や工場全体がIoT化されるスマートファクトリー、スマートシティの実現に欠かせない通信技術です。

野村総合研究所の試算では、2025年には携帯電話端末の出荷数の56%(約2,000万台)が5Gに対応するとみられ、急速に商用化が進むと予測されています。[注3]

通信技術②:低電力で通信距離が長い「LPWA(Low Power Wide Area)」

「LPWA(Low Power Wide Area)」も、IoTデバイスの普及に欠かせない通信技術です。LPWAは5Gと違い、低電力・低コストな無線通信ネットワークの構築に役立ちます。

LPWAが搭載されたIoTデバイスは、単三電池や乾電池1本で長時間の稼働が可能です。通信可能な距離も長く、通信規格にもよりますが、10km以上離れたデバイスを同時に接続できます。

ビットレートが低いのが欠点ですが、多くのIoTシステムは小容量のデータの送受信が中心であり、大きな障害にはなりません。電力供給が難しい僻地での簡易無線局代わりや、IoTシステムのコストダウンを目的として、物流・製造・農業などの分野で活用されています。

IoT普及に立ちはだかる2つの課題

通信技術が発展し、IoTデバイスは多様なニーズに応えられるようになりました。しかし、IoTを普及させるうえで、避けては通れない課題も存在します。IoTで生活をより便利に変えるには、2つの課題をクリアしなければなりません。

課題①:IoT機器を狙うサイバー攻撃のリスクが増加

IoTビジネスが直面する最初の課題は、IoTデバイスのセキュリティ対策です。近年、IoT機器をターゲットにしたサイバー攻撃が相次いでいます。

情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威 2020」においても、企業や組織を狙ったセキュリティ脅威のうち、「IoT機器の不正利用」が全体の9位にランクインしています(前年は8位)。[注3]

2016年には、当時史上最大規模の「DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack)」が発生しました。この時、マルウェア「Mirai」に感染した約18万台のIoTデバイスが、DDoS攻撃の踏み台(ボット)となり、大量のトラフィックを生み出してサーバーをダウンさせたと推定されています。

このDDoS攻撃では650Gbpsのトラフィックが発生しており、一般的なITシステムが同等の攻撃を受ければ、サーバーダウンは避けられません。インターネットにつながるIoT機器が増加すれば、それだけサイバー攻撃のリスクは増加します。IoTデバイス本体のセキュリティ対策はもちろん、通信経路のセキュリティを強化し、サイバー攻撃に備える必要があります。

課題②:IoTデバイスが爆発的に増加すれば電力不足のリスクも

IoTデバイスの出荷台数が今後も堅調に増加すれば、世界的な電力不足のリスクを抱える可能性があります。

たとえば、IoT機器が1台あたり5~8W程度の電力を消費すると仮定すると、5億台のデバイスが同時に使われれば、1年間で12TWhの電力が消費される計算です。

アメリカの原子力発電所の発電量は、平均して1年間で10TWh程度であり、比較してみるとエネルギー消費量の大きさがわかります。すでに述べたように、IoT機器の出荷数は2020年代以降、450億台を超えると予測されています。

こうしたエネルギー問題を緩和するには、LPWAのような低消費電力の無線通信ネットワークを採用するか、省電力性能に優れたメモリシステムを搭載して、持続可能なIoTシステムを構築する必要があります。

IoTの市場規模は拡大しており、新規参入のメリット大

IoTの市場規模は拡大をつづけており、2022年に全世界で1兆ドルの大台に達すると予測されています。

近年、物流や製造業、自動運転やヘルスケアなど、さまざまな分野でIoTを活用する事例が増えてきました。超高速モバイルブロードバンド通信が可能な5Gや、低コストでIoTシステムを構築できるLPWNなど、次世代通信技術の登場も後押ししています。

これからIoTビジネスに参入する方は、IoTデバイスのセキュリティ対策や、持続可能なシステム設計が課題です。

[注1]総務省 令和2年版 情報通信白書
[注2]Impress 世界のIoT市場規模は2019年に7450億ドルに、米IDCが予測
[注3]情報処理推進機構 情報セキュリティ10大脅威 2020
[注4]野村総合研究所 2025年度までのICT・メディア市場の規模とトレンドを展望

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