米ウォルマートに学ぶリアル店舗のサバイバル戦略

世界最大の小売業である米国ウォルマートが躍動している。5月に発表された最新決算(20年2~4月)では、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴う「巣ごもり需要」を、同社のEコマース部門が着実に刈り取っていたことが確認できた。これを受けて、同社の株価も3月の安値圏から挽回し、年初来高値(終値ベース)を更新している(7月22日現在)。本稿では、同社の最新戦略を検証して、日本の小売業(リアル店舗運営)の戦略的な示唆を探っていく。

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攻め続ける、最大手


出典:各社発表や米リコード、CNBCより

ウォルマートをめぐる注目ポイントは、以下の通りだ。

1 外部リソースを取り込み、ECプラットフォーマーの地位を確立
2 リアル店舗ならではの提供価値で差別化
3 注文~受け取りのリードタイムが最短となる「店頭ピックアップ」を
  DXで最適化

消費者行動や競争環境の変化に対応するべく、ウォルマートはビジネスモデル刷新に向け、手綱を緩めていない。
ここ数週間(6~7月)を振り返っても、6月にカナダのEC運営支援大手「ショッピファイ」との事業提携を発表。7月には、全米160店でのドライブスルー型の映画館事業のローンチ、インドの「フリップカート」への約1,300億円の追加出資、保険代理店事業への参入、有料会員サービス「ウォルマート+(プラス)」の開始(メディア報道)など、新規事業・サービスの発表やメディア報道が目白押しであった。

「対アマゾン」の姿勢鮮明に

「アマゾンキラー」とも呼ばれるショッピファイとの連携は、ウォルマートがアマゾンに徹底抗戦するための布陣だ。世界最大のEC支援会社であるショッピファイは、アマゾンのようなECプラットフォーマーと一定の距離を保ちたい(ブランドの世界観を自らの管理下に残したい)と考える多くのブランド企業を取り込んで急成長してきた。今回の提携によって、ショッピファイを利用するブランドの商品が「ウォルマート・ドットコム」のマーケットプレイスで購入可能となる見通しだ。

ウォルマート・ドットコム躍進の陰で、同社グループのEC戦略を牽引してきた「ジェット・ドットコム」は今年静かにサービスを終了している。2016年に買収されたジェット・ドットコムは、打倒アマゾンに燃える幹部社員と顧客基盤という2つの無形資産をウォルマートにもたらした。
4年前にはEC領域においてアマゾンの背中も見えない位置を走っていたウォルマートは、ジェット・ドットコムの買収やショッピファイとの事業提携など積極的な外部リソースの内部化・活用によって、果敢な追い上げを見せている。

「ウォルマート+(プラス)」と仮想敵「アマゾンプライム」

前述した最新ニュースのなかで筆者が最も注目したのは、有料会員サービスの「ウォルマート+(プラス)」である。短期配送サービス(2日以内)や会員向け特別価格等の特典が定額で利用し放題となるサービス設計であり、「アマゾンプライム」を仮想敵としていることは明白だ。一部報道では、ウォルマート+(プラス)の年会費は98ドルと観測されていて、これは従来展開していた「デリバリー・アンリミテッド(2日以内の配送サービス)」の年会費と同水準にして、アマゾンの米国におけるプライム会員費(119ドル/年)を下回る設定である。
もちろん、アマゾンプライムの会員特典には、購入商品の即配サービス(注文当日~2日の商品発送)に加えて、音楽や動画といったデジタルコンテンツ視聴の追加特典等も含まれており、両社の年会費は単純に比較できない。ただし、ウォルマート+(プラス)にも、いくつかの追加特典が用意された。目玉のひとつはガソリンの会員価格(割引)販売である。
米国の消費者の1人当たりのガソリン消費量は日本の3倍以上に達することから、割引販売が家計消費に与えるプラス効果は大きいだろう。また、店舗(駐車場)を映画館に変える新規事業も、リアル店舗を持つウォルマートならではの着想だ。

「受け取り拠点」としてのリアル店舗

ウォルマートの競争戦略における最大のポイントは、受け取り拠点としての店舗ネットワークだ。約4,700店の同社の店舗網は、各店から半径10マイル(≒16KM)の商圏を想定すると、全米の消費者の約9割をカバーできると言う。
10マイル(≒16km)ならば、車で往復1時間以内の距離だ。オンラインオーダーと決済を事前に済ませておけば、店舗到着後のショッピング体験に費やす時間や体力(駐車する、カートを押して商品を選んで回る、レジを待って会計する等)、そして不要不急の他人との接触を回避できる。
ウォルマート・ドットコムでは、オンラインオーダーの商品受け取り方法として、宅配と店頭ピックアップの2つのオプションを提供しているが、利用者数は後者の店頭ピックアップに軍配が上がると言われる。消費者にとっての魅力は店頭ピックアップが無料サービスであることに加えて、商品注文から受け取りまでのリードタイムの短さ(上述の試算だと1時間程度)にあるだろう。
店頭ピックアップは、供給側に過度な負担がかからない点においてサービス設計として安定的であり、利用者に対しても、他者との接触や手間暇(店内の回遊やレジ係との近接)を減らし、宅配を待つ時間の短縮といったメリットをもたらす。

まとめ

新型コロナとアマゾン、2つの脅威を退け続ける米国ウォルマートの強さは、

1 外部リソースの活用(事業提携や買収)によるECプラットフォーム機能の
  強化
2 リアル店舗ならではの商品・サービスの割引販売
3 オンライン注文・決済と店頭ピックアップによる顧客体験の向上

の三つに支えられている。ビジネスモデルの再構築が待ったなしの日本の小売業・サービス業にとって、示唆の多い成功事例と言えるだろう。

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