いま、ディープテックが注目される理由は?社会問題の解決に役立ちうるか?

世界には、人口減少や環境汚染といった普遍的な課題が存在します。こうした地球規模の社会問題をテクノロジーで解決する「ディープテック」という分野がいま注目されています。本稿では、ディープテックの定義や注目される理由、事業化のリスクなど幅広い視点で解説します。

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ディープテックとは

ディープテックとは、将来的に世界を大きく変える可能性を秘めた科学技術です。

「可能性に満ちた深い(ディープ)ところに眠っている技術」と、「社会に深く根ざした問題(ディープイシュー)を解決できる技術」という2つの意味があります。

ディープテックに当てはまる技術は、以下4つの条件を満たします。

  • 大学や研究機関における最先端の設備または研究開発を基礎としている
  • 実現までに必要なスキル・投資額・時間が膨大である
  • 多くの場合、具体的な製品やサービスが見えていない
  • 成功した場合のインパクトが大きく、世界的かつ破壊的ソリューションとなり得る

つまりディープテックは、中長期的な研究から事業化を経て、地球や人類の課題解決に資する製品やサービスを提供するひとつのビジネス領域です。[注1]

なぜいまディープテックなのか?

現在のスタートアップ業界では、初期投資や事業化までの期間が比較的ライトなWebサービスやアプリケーション領域から、その真逆とも言えるディープテック事業への注目度が上がっています。

こうした現況の背景にある3つのポイントを以下に整理します。

SDGs達成に向けた動きの活発化

「SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)」とは、2015年9月の国連サミットで掲げられた、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。

SDGsには、貧困や飢餓、健康や教育の充実、気候変動対策などの解決すべきディープイシューが設定されています。

その解決策として、ディープテックが従来以上に脚光を浴びるようになりました。[注2]

ディープテック業界への投資増加

SDGsが話題となった2014~2015年以降、ディープテック系スタートアップ企業への投資額は国内外ともに増加していきました。

トレンドを後押ししたのが、政府系機関からベンチャー・キャピタル業界への資金供給増加や、外部と協力したオープンイノベーションを望む大企業によるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)です。

ディープテック関連の民間投資額は、2015年から2018年にかけて年間20%以上急増し、約180億ドルに達したとの調査結果も出ています。[注3]

大学発スタートアップの増加

2019年4月に「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」が改正施行され、国立大学法人が株式や新株予約権を保有できることが明文化されました(第三十四条の五)。

この法改正によって高い技術力を持った大学発スタートアップ増加が後押しされ、ディープテックの研究開発を促進する土壌が育ちつつあります[注4]

ディープテックが期待される領域

ディープテックが期待される領域は、研究開発型の革新テクノロジー分野や、SDGsが掲げたディープイシューに関連する分野にかけて多岐に広がります。

代表的な領域については以下の通りです。

ディープテックが期待される領域

各領域の中にさまざまな研究分野があり、モビリティ分野なら自動運転技術や空飛ぶ自動車(スカイカー)、バイオテクノロジー分野ならゲノム編集や合成生物学など、数多くの技術シーズが存在します。[注5]

ディープテックのリスク

ディープテックに取り組む企業は、2つの大きなリスクを抱えています。

ひとつは、研究段階では上手くいっても、実用化には至らないケースが多い点。

そしてふたつ目が、実用化ができたとしても、収益化までの道のりが長い点です。

イノベーションを産業化する技術経営の世界では、以下の3つの障壁を乗り越えなければならないという定説があります。

  • 魔の川:研究を製品・サービスに昇華できるか
  • 死の谷:製品・サービスを売上にできるか
  • ダーウィンの海:事業の競合優位性を保てるか

時間や費用といった研究コストが膨大となるディープテック領域では、こうした障壁はより顕著にあらわれます。

日米の代表的なディープテック企業

今回は、代表的なディープテック企業を日米それぞれ1社ずつご紹介します。

【日本】株式会社ユーグレナ

「株式会社ユーグレナ」は、「人と地球を健康にする」を経営理念とし、2005年に設立されたバイオテクノロジー企業です。

同社は藻の一種であるミドリムシ(学名:ユーグレナ)が59種類の栄養素を持つことを生かし、食品や化粧品の販売、バイオ燃料の研究等を行っています。

実現可能性が未知数のディープテック業界では、数少ない事業化に成功した例とも言えます。[注6]

【アメリカ】H2O.ai

2012年設立の「H2O.ai」社は、AIと機械学習分野の最前線に立つソフトウェアメーカーです。

同社は「AIの民主化」を掲げ、誰でもAIの恩恵を受けられる世の中を目指し、金融業務やヘルスケア、製造といった幅広い分野にAIを用いた予測系ソリューションを提供しています。[注7]

未来の課題を解決するディープテック

ディープテックは、事業化のハードルが高いリスクはありながらも、未来の課題を解決する希望に満ちたフロンティア領域です。

ディープテック事業が成功するためには、製品・サービスを提供するスタートアップ企業だけでなく、高い技術力を持つ大学や研究機関、そして資金力を誇る投資家やCVCとの連携が欠かせません。

国際的にディープテックへの取り組みが進む中、地球規模で解決すべき課題と、解決手段となる科学技術に目を向けることが、ディープテック業界でのビジネスチャンスに繋がります。

Frontier Eyes Onlineでは経済やビジネスのトレンドから基礎知識まで、幅広く解説しています。

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<参考>
[注1]「The Dawn of the Deep Tech Ecosystem」BCG
[注2]「SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform」外務省
[注3] 「国内スタートアップ資金調達 2019年最新トレンド」INITIAL
[注4]「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」e-Gov
[注5]「ディープテック・リアルテック アーカイブ」株式会社インタープレジデント
[注6]「公式ホームページ」株式会社ユーグレナ
[注7]「Home – Open Source Leader in AI and ML」h2o.ai

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