「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」とは?企業の材料開発を効率化

近年、材料科学は新たなパラダイムシフトを迎えつつあります。それが、AI、機械学習、探索アルゴリズムといったデータサイエンスの手法を材料開発に応用した、「マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics:MI)」です。既に日本国内においても、マテリアルズ・インフォマティクスによって研究開発のプロセスを効率化し、時間とコストの削減に成功した事例が存在します。本記事では、材料開発の新手法「マテリアルズ・インフォマティクス」の特徴や、今注目を集めている理由について、導入事例をあげながら解説します。

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マテリアルズ・インフォマティクスとは?情報科学が材料開発の現場を変える

「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」とは、材料開発の分野で情報科学の知見をいかしたアルゴリズムを活用することで、材料開発のコストダウンとスピードアップが可能になる新手法です。

従来の材料開発では、新素材の候補を発見し、製品化に至るまでの間におよそ10~20年の歳月を要するといわれています。

しかし、マテリアルズ・インフォマティクスは、過去の実験データやシミュレーションデータを学習させた探索アルゴリズムを使い、材料開発を大幅に効率化できます。

そのため、各国政府がマテリアルズ・インフォマティクスへの財政的支援を行っています。

従来の手法とマテリアルズ・インフォマティクスの違いは?探索アルゴリズムが材料開発を効率化

マテリアルズ・インフォマティクスは、手順や組み合わせの発見に強い探索アルゴリズムなどを活用して、従来よりも材料開発の効率化に成功しています。

従来の材料開発は、「実験」と「理論計算」の2つのプロセスが組み合わさったものでした。

つまり、新素材の候補を探すために理論計算を繰り返し、その都度結果を実験室で確かめるというプロセスです。

研究者の裁量による部分が大きく、多大な時間とコストがかかっていました。実験の一部を自動化することで、開発プロセスを効率化していたものの、多くの課題がありました。

マテリアルズ・インフォマティクスは、過去の実験データやシミュレーションデータに基づく探索アルゴリズムなどにより、材料開発のプロセスを効率化する手法です。

探索アルゴリズムとは、正しい手順や組み合わせを見つけるアルゴリズムで、カーナビや乗換案内にも使われています。

材料開発は目的達成に向けて、膨大な物質の中から最適な組み合わせを探す試みです。

探索アルゴリズムを活用することで、短時間で精度の高いアウトプットが可能になりました。

マテリアルズ・インフォマティクスを採用する3つのメリット

マテリアルズ・インフォマティクスを採用する3つのメリットを解説します。

1.材料探索・設計において、実験計画の精度を高める

マテリアルズ・インフォマティクスは、目的達成に向けた材料を探索する過程で、実験計画の精度を大きく高めることができます。

具体的には、機械学習やディープラーニングを活用したモデルをつくることで、実験対象がどれほど目標の材料に合致していそうか、実験前に精度の高い予測をすることが可能です。

2.材料合成・評価において、シミュレーションの精度を高める

材料合成・評価のプロセスでは、候補となる材料の理想的な混合比や組み合わせを探ります。

過去の実験データや理論計算データに基づき、機械学習や探索アルゴリズムを活用することで、高精度なシミュレーションを行うことが可能です。

3.研究開発計画の立案において、採算性や実現可能性を計測しやすくする

研究開発計画の立案で大切なのは、ゴーサインを出してもらうためのエビデンスを用意することです。

マテリアルズ・インフォマティクスは、開発プロセスを改善するだけでなく、開発計画の採算性や実現可能性の見通しを良くします。

過去の実験データやシミュレーションデータをマイニングし、データサイエンスの手法でエビデンスが出せるため、開発計画をスムーズに立案できます。

日本国内のマテリアルズ・インフォマティクス 3つの成功事例

マテリアルズ・インフォマティクスは、国内でも導入が進んでいます。

マテリアルズ・インフォマティクスが成果につながった3つの事例を紹介します。

物質・材料研究機構(NIMS)と愛媛大学の研究チームの事例

物質・材料研究機構(NIMS)と愛媛大学の合同研究チームは、マテリアルズ・インフォマティクスの手法で、圧力下で発現する新たな超伝導物質の発見に成功しました。

データサイエンスを用い、従来の手法にとらわれることなく探索を行った結果、目標となる物質を効率的に発見しました。

他の機能性物質の開発にも応用できる手法であると期待されています。[注1]

NEC・富士通・日立の材料開発支援事業の事例

マテリアルズ・インフォマティクスの方法論を確立し、その知見やノウハウを外販する材料開発支援事業を展開しようとしているのが、NEC・富士通・日立製作所の3社です(2018年時点)。

NECはAI技術、富士通はスーパーコンピューターなどの計算資源を活かし、自社の研究所で電池や電熱材料の開発を行っています。[注2]

NEC・東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の事例

過去のデータにない「未知の材料」の特性予測に成功したのが、NEC・東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の合同チームです。

NECが開発した数種類の機械学習モデルを組み合わせることで、1000種類以上の材料データを同時に評価することが可能になり、材料開発が大幅にスピードアップしました。

その結果、熱電変換デバイスの変換効率を100倍に向上させることにも成功しています。[注3]

マテリアルズ・インフォマティクスが抱える課題

マテリアルズ・インフォマティクスを本格的に活用し、優れた材料をより短いサイクルで開発していくためには、3つの課題を解決する必要があります。

(h3)課題1. 膨大なデータの蓄積
機械学習モデルを使ったり、探索アルゴリズムの条件づけをしたりするには、膨大な材料データが必要になります。

(h3)課題2. 計算技術のアップデート
材料データを評価する際の計算技術や評価モデルが確立されておらず、まだ試行錯誤の段階にあります。

(h3)課題3. データ共有のためのプラットフォーム不足
膨大な材料データを効率よく管理し、組織内で共有するためのプラットフォームが不足しています。

日本は高度経済成長期の材料開発を通じ、膨大な材料データを蓄積してきたため、データ活用においては諸外国よりも優位に立っています。

しかし、材料データを探索・評価する際のアルゴリズムや機械学習モデルは、国内企業が多くのテストを行っているものの、いまだ確立されていない状態です。

また、材料データを共有するための仕組みが不足しており、同一の組織内の運用だけでなく、産官民の連携まで考えると、早急なプラットフォーム構築が求められます。

材料科学と情報科学の融合:マテリアルズ・インフォマティクスが材料開発を変える

マテリアルズ・インフォマティクスは、現在進行系で起きている材料開発のパラダイムシフトです。

探索アルゴリズム、AI、機械学習やディープラーニングといった新技術を駆使して、材料開発の時間とコストを大幅に削減することに成功しています。

マテリアルズ・インフォマティクスを導入するためには、計算技術のアップデートや、データ共有のプラットフォーム構築が必要です。

[注1] 物質・材料研究機構:マテリアルズ・インフォマティクスによる新超伝導物質の発見
[注2] ニュースイッチ:NEC・富士通・日立に見る「マテリアルズ・インフォマティクス」最前線
[注3] 日本電気株式会社:NECと東北大AIMR、AIによる新材料開発に成功

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