消費財業界:コロナ後の成長を見据え、ポートフォリオ最適化の検討を

上場化粧品・トイレタリー関連企業の2020年1-3月業績が出そろった。コロナ感染拡大の影響を受けた1-3月(3か月)の業績は化粧品業界と、洗浄・衛生用品等を含むトイレタリー/日用品業界で大きく明暗が分かれた。この傾向は4月以降にも継続、あるいは拡大し、消費財グループ各社の2020年度業績の格差は大きくなると見ている。

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明暗が分かれたトイレタリー/日用品業界と化粧品業界

1-3月期業績が増収増益となったのはライオン、ユニ・チャーム、マンダム、ロート製薬の4社、減収ながら増益となったのは花王1社である。
なお、日用品やヘルスケア製品を主力とする小林製薬は減益だが、その要因は当期に固定資産の耐用年数・償却期間を見直したことによる一括償却費用であり、この影響を排除した実質前年同期比は9.1%増益である。
しかし今期業績ガイダンスでは、花王、ライオン、ユニ・チャーム、小林製薬、ファンケルは増収増益を見込んでいる一方で、ロート製薬は減収減益見込み、資生堂、マンダムは予測困難なため非公表としている。
マンダムは化粧品メーカー、ロート製薬も売上高の6割強がスキンケア製品(医薬品・化粧品)を主力としており、いずれも3月決算企業である。多くの3月決算企業と同様に両社では海外子会社の決算期は親会社(3月)よりも早い12月(マンダム海外全て、ロート中国及びベトナム)~2月(ロート欧米)である。

これらの企業の2020年3月期の連結業績は、海外におけるコロナ感染拡大の影響をほとんど反映していない。マンダムの現地上場子会社であるPTマンダム・インドネシアが開示した2020年12月期第1四半期業績は、売上高前年同期比20%減、営業利益同99%減であった。
このような状況を鑑みても、化粧品業界に多い3月決算企業では2021年3月期第1四半期以降に本来の海外業績の悪化が顕在化すると見ている。

コロナ後の再成長に向けた強みと弱みの見定め

衛生用品の需要は世界的に高止まりを期待

「Withコロナ」の消費者生活習慣としてマスク、手指消毒液、ハンドソープなどの使用は定着しており、洗濯用洗剤や住居用洗剤などの使用量増加も併せて、トイレタリー業界にとって現在の「特需」は長期的な常態化が見込まれる。
マスクなど原材料価格高騰の懸念はあるものの、不足気味の必需品であることから一定の価格転嫁は消費者の理解を得られるだろう。花王、ライオン、ユニ・チャームは既にアジアを中心に海外でも浸透したブランド認知と主力製品の市場ポジションを有している。現在の環境は、これまで海外では規制や生活習慣から展開が進んでいなかった衛生関連用品についても、更に拡大する好機といえる。

総合メーカーが苦戦する化粧品業界、メリハリのあるポートフォリオの再考が必要

化粧品業界の中でも、美容部員等による対面販売を主力チャネルと、ドラッグストアなどセルフ販売店舗やECチャネルでは売上の減少幅に大きな差が出ている。製品カテゴリーでは、日々の実需が安定しているスキンケア製品は落ち込み度合いが小さい一方で、外出自粛やマスク着用の習慣化を受けてメイクアップ製品や日焼け止め関連は落ち込みが大きい。
このため対面販売比率が高く、フルラインカテゴリーで複数ブランドを展開する総合メーカーでは、コロナ禍の収束までは厳しい収益状況が続く見込み。現在の厳しい状況を、特に価格帯やチャネルが重複するブランドや市場ポジションの低い製品カテゴリーの再検討につなげ、自社の強みを最大限生かした資源配分と、ブランド/製品ポートフォリオ最適化を検討する機会にすべきであろう。

特に中国圏やインバウンド、トラベルリテールの高成長を背景に、近年M&Aなどを含む積極的な大型投資が続いていた資生堂では、現状の売上減速を機に、ポストコロナを見据えて経営資源を注力配分するべき領域の精査と再定義が進むと見ている。

インバウンド・トラベルリテール消滅を前提とした、海外製品戦略の最適化が急務

国際航空運送協会(IATA)は5月13日、航空需要が2019年の水準に回復するのは、国際線では2024年との見通しを公表した。大半の企業がインバウンド需要の恩恵を受けてきた日本の消費財業界では訪日客激減の影響は大きい。更に中国圏・ASEANを中心とした市場ではMade in Japanを付加価値とする製品が成長をけん引してきたが、インバウンド購買や空港・機内免税店での購買は、自国でのリピート購買や口コミにつながる大きなマーケティング・ツールにもなってきた。ここ数年で拡大したインバウンド需要を、なんとか越境EC等を通じた現地での購買へシフトさせようとしてきた消費財企業の戦略にも、コロナ禍は大きく水を差した。

EC拡大に伴ってデジタルを活用したボーダーレス・マーケティングの重要性が高まっているが、加えて、美容・健康といった機能性製品領域では消費者に「使用体験」を提供することが購買につながる重要なコミュニケーションとなる。
訪日旅行や免税店といった大きなタッチ・ポイントがほぼ消滅した中で、製品コンセプトや価格帯などによっては、ECチャネルであってもイベントなどを利用した「体験」の提供や、地域でのリアルチャネル販売への切り替えなど、マーケティングと物流の効率性も踏まえた製品とチャネルの最適化が求められる。
承認ハードルの高さから越境ECを見送っていたサプリメント、医薬部外品や医薬品などでは、インバウンド需要から醸成された消費者の認知が有効な期間内に、知見を有する既参入企業や現地企業との提携も視野に入れ、早期の進出やあるいは権利売却なども検討すべきだろう。

消費財業界では、コロナウイルス感染拡大による売上変動が大きい化粧品業界を含めて、現時点で赤字のガイダンスを予想している企業はなく、筆者も予想していない。
もともと当業界の企業は他業界比で財務安定性は高い。化粧品メーカーなどで売上の大幅減少が資金繰りに及ぼすリスクは無視できないものの、事前想定される範囲であれば、売上高の1/4超を占めるマーケティング経費の削減でキャッシュアウトを調整することは可能だ。(ただしこれは、収束期における売上回復を抑制する劇薬となることは否定できない)

まとめ

コロナ禍を回避することは不可能だが、トイレタリーのみならず一定規模以上の化粧品企業も多くは、現状は感染対策や必要な人材ケアなども徹底しながら、財務的に耐えることは十分に可能と見ている。この間に、コロナがもたらす生活習慣、消費行動、産業の変化を分析検討し、経営体制の強化や既存戦略の検証や再構築を行い、収束時の準備を進めることが重要だ。

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