【2020年度】5G・AI・IoTなどの次世代テクノロジートレンドと、ビジネスへの示唆

筆者は2018年から、年初にいわゆる次世代テクノロジーの変化について展望することを習慣にしている。本稿では2019年の次世代テクノロジーの動向を振り返りつつ、2020年における次世代テクノロジーの動向を主に日本国内について(実際には日本とそれ以外の地域の動きは連動しているがあえて日本のエリア特性が際立つ軸として)、「基盤技術」「通信」「デバイス」「投資」の4つの切り口で展望し、企業経営への示唆導出を試みる。

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基盤技術「AI」「ブロックチェーン」「IoT」への失望は継続

失望 イメージ

コンサルタントとして実感するのは、「AI」「ブロックチェーン」「IoT」への期待が急速に減退していることだ。次世代テクノロジーの導入において比較的先行している金融業・通信業よりも、製造業やサービス業において顕著だと感じる。これは実際のビジネスに次世代テクノロジーを落とし込む困難に直面している企業が増加していることの顕れであり、テクノロジーの幻滅期には特徴的なものだ。

足元の不確実性増大からしてもおそらく、2020年はまだまだ幻滅期が継続する可能性がある。事業会社においても、新しいアイデアの実現可能性を検証する「PoC」を推進する立場にあった企画推進担当部署は受難の1年になるだろう。「他社(競合)もやっているし、うちもやろう」という動機で進めたプロジェクトに結果が伴わず、マネジメント層が我慢できずに終了させる、というケースが頻出する可能性が高い。

特にAIについては、未だに発注側において

  1. 「魔法の杖」幻想
  2. 自社データの質・量についての誤解
  3. 開発側(情報システム部門)と経営企画/経営陣など意思決定側との認識の齟齬

以上3つが解消できないまま推進され、とん挫するケースが少なくない。

筆者が事情を知る範囲でも、「そもそもAI以外のIT技術で解決するべきテーマ(パターン①)」や「PoC前のアセスメント段階で、既に社内データであるカメラの画像の解像度不足(パターン②)」、「汎用的なデータの更新など運用体制の不備(パターン③)」などで、PoCにすら進めないケースや、PoCに進んだものの期間中に提供されていたデータ以外に追加データが必要となることが判り「実は別部署管理のデータでクレンジングが進んでいないため使い物にならない(パターン②・③の合体)」ため開発・実装には進めないケースがあった。
「どのように克服すればいいのか」については別稿に譲るが、ともかく疲労感・徒労感が蔓延している。

ただ、逆説的にこうした時期だからこそ、幻滅期の先にある「本格的な普及期」を見据えて、じっくり自社に適した活用テーマを探索する「潜る」意思決定をできる企業にとって、力を蓄える有意義な期間となるかもしれない。

ビジネスへの示唆

  • 次世代テクノロジーの導入は、関係者間の合意形成・評価方法など教科書的な正解のない経営課題
  • 当面続く幻滅期は、自社の「次世代テクノロジーへの向き合い方」が問われる局面

通信:5G商用化はリッチコンテンツ回帰の契機に。ディズニーに注目

5G

今春の商用化を見込み、「5G」は大きな検討課題だ。さきほど挙げた「AI」が幻滅期に突入したことに比較して、過剰な期待のピークに到達している。Appleが20年中に発売する機種がすべて5G対応するとの見方もあり、5G対応のスマートフォンは生産が増える見通しで、スマホの買い替えサイクルの長期化に歯止めをかけるのではないかと部品メーカーなどのサプライヤー側の期待は高まっている。

ただ、通信環境の整備はまだまだこれからというのが実情だ。導入当初は、4Gのネットワークに5G通信機器を活用して一部実現する「ノンスタンドアローン運用」となり、「高速大容量通信」は確かに実現するが、ゲームなどに求められる「低遅延」は当分難しい。基地局ビジネスが通信機器、電子部品関連企業に恩恵をもたらすことはあるだろうが、新規ビジネスの登場を期待しづらい状況にある。

5Gは通信方式(NR、New Radio)で超高速通信を実現するが、周波数の高さやイニシャルコスト、サービス開始時間の短縮のために日本では、既存の4G/LTE基地局を利用するノンスタンドアローンを採用する。例えば、台湾などでeスポーツが盛り上がることで、かえって遅延時間の問題が顕在化するのではないか、とみている。

一方で、期待されるのは既存のアプリケーションだ。特に動画にとって、高速大容量通信は大きな恩恵があるだろう。「Tik Tok」にInstagramが敗北したように、カジュアル動画が全盛だが、5Gの導入でリッチなコンテンツに消費者が再度向かっていく可能性は高い。

日本では移動時間などでカジュアル動画を消費していると思われがちだが、実は就寝前「くつろぎ」を目的にある程度まとまった時間を使って動画視聴をしているからだ。少し俯瞰してみると、ディズニーが21世紀FOX、Huluを次々と完全子会社化することで、Disney+、ESPN、Huluと、ライブラリを充実させた戦略の真価も発揮されていくことになる。サブスクリプションバトルロイヤルも最終章に向かっていくだろう。

ビジネスへの示唆

  • コンテンツライブラリの価値が増大(企業価値の源泉に)
  • (ディズニーは参考にするには規模が桁違いだが)戦略オプションとしてのM&A巧者になることの重要性

デバイス:Fitbit買収を長期的なデータ投資とみるかウェアラブル復権とみるか

Wearable device

昨年のGoogleによるFitbit(スマートウォッチなどを手がけるアメリカ企業)買収は非常に興味深かった。かつての期待も既にしぼみ、長い幻滅期に突入していたウェアラブルのリーダー企業を21億ドルで買収する。ここから何を読み取るかは様々だろう。

筆者には、サーモスタットのような枯れた、地味な技術に「家のプラットフォーム」の根幹の役割を与えたGoogleのNest買収を想起させた。

アメリカではヒーター、エアコンは部屋ごとに分かれていないことが多く、サーモスタット(全米で3,000万個)が温度変化を把握することでスイッチやバルブを調整して家全体の温度を調節する。Nestは2010年に元Appleのエンジニアが創業したIoT企業。サーモスタットと煙・一酸化炭素報知器の製造業だったが、Googleが2014年に32億USDで買収した。Nestのサーモスタットを設置することで光熱費を削減(一説によれば20%程度)できるなど、リアルな生活への貢献を売りにしている。Googleのスマートホーム製品は現在、「Nest」ブランドになっている。

GoogleはWear OSを展開しているが、消費者と直接つながる認知を得るに至っていなかった。Fitbitは歩数、心拍数、睡眠時間・・・など様々な健康データを収集しており、「データを得るためのウェアラブル」という文脈には依然として可能性を感じているとみるのが妥当だ。

しかし、収集した健康データをマネタイズすることは、少なくとも2020年には難しいだろう。その理由は、Google自身が「個人情報を販売せず、広告にも使用しない」としているからだ。2019年12月には、フランス競争当局から制裁金を科されたGoogleは、欧州データ保護会議(EDPB)にも目をつけられており、広告への活用には慎重にならざるを得ない。
筆者はFitbitが2019年11月「Fitbit Wellness Day 2019 Tokyo」で概要をプレビューしたパーソナルトレーニングサービス(「Fitbit Premium」)に注目している。健康への助言は究極のパーソナライズサービスであるからこそ付加価値も高く、プラットフォームとしての魅力度を証明することになるだろう。同じく苦戦しているAR(Googleグラス)にもその影響は波及するはずだ。真の意味でウェアラブルが普及するかどうか、の試金石となる1年になる。

ビジネスへの示唆

  • ウェアラル復権による事業機会の点検
  • 投資が過熱しすぎていたことによって見送った案件の棚卸、再検討

投資:変化の兆し。BtoCも利益重視

startup

2019年は、機関投資家によるスタートアップ投資が、真の意味で成熟するために必要な転換点となったようにみえる。Slackのようにダイレクトリスティング(「直接上場」と言われる。企業が新たな資金を調達するためにIPOすることが多いため一般的ではないが、上場する際に既存株式だけを上場し、新株を発行しない方式。証券会社の手数料が抑制できる一方で「公開価格」が存在しないため株価は乱高下するリスクがある)をする企業があったため、資金調達額は2018年並み(前年割れとするレポートもある)だったが、調達金額が兆円単位になるスタートアップのIPO(株式公開)への挑戦が相次いで失敗した(Uberの上場価格は想定を下回り、WeWorkは上場を撤回)。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドには利益相反問題に改めて非難が集まった。重要なのは、多くのユーザーを引きつける魅力的なサービスではあるものの、現実として大きな損失を抱えるBtoC企業にプレミアム評価を与えることに、一般投資家から拒否感が示されたことだろう。

2020年はこうした消費者向けサービスへの過熱が是正されていく可能性がある。本年はAirbndがIPO準備に入っているとされるが、直接上場を選択すれば、この傾向がしばらく続く可能性がある。ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家は、「損失を積み上げてもユーザー数を確保するなどスケールを確保」し、投資先企業のIPOによって投資回収をする手法から、利益を確立する支援に転換せざるを得ないかもしれない。

筆者は2019年の1月に弊社『産業調査通信』で、下記のように予測した。
「(前略)リーマンショック以降、初めての調整局面を迎えている。「成長する世界に飼い慣らされた」と感じるスタートアップ経営者や投資家は、コストダウン追求や資金調達の事前交渉を開始するよう推奨したい。「守り」の意味もあるが、競合他社が景気後退期に資産や事業を売却する場合に備える「攻め」の意味も大きい。」
日本の投資環境は以前から過熱気味との指摘はあったが、2019年にはすくなくとも投資額が縮小することはなかった。2020年はスタートアップ全体への投資額が激減するような事態とはならないだろう。ただし、2019年の展望に示した「守り」と「攻め」の重要性は高まっていくと思料する。

ビジネスへの示唆

  • より厳しく利益創出能力を問われる資金調達環境が到来
  • 楽観シナリオ以外で自社事業を魅力的に伝えるコミュニケーション能力が重要
  • 「守り」が最重要だが、競合他社の資産・事業買収を狙う「攻め」の好機

次世代テクノロジーを取り巻く環境は厳しいが、「好機」ともなりうる

本稿では、「基盤技術」「通信」「デバイス」「投資」という4つの切り口で2020年を展望してきた。2020年は次世代テクノロジーにとって、基盤技術が幻滅期の最中に景気減速が顕著となり、楽観視できない状況にあることは事実だ。だが展望してきた通り「やるべきこと」「やりたいこと」をはっきりと見据えている強かな経営者、企業人、投資家、起業家、エンジニアにとっては、活躍する舞台に事欠かない一年となるのではないか。筆者はどうも前向きな結論にしか到達できない。

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