コロナウイルス(COVID-19)と「宅経済」の進展

コロナウィルス発生国の中国では、次第に感染が抑制されつつある。しかし、全人代が延期となるなど、依然として中国社会への影響は続いている。この記事では、皆が外出を控えることで生まれた「宅経済」と呼ばれる現象と、中国のライフスタイルへの影響について考察する。

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中国では感染ペース抑制へ

客少ないレストラン

コロナウィルス(COVID-19)は日本、韓国その他全世界での広がりを見せている。

中国では発症者は累計80,981人(3月11日時点)となり
SARSの発症者数が8,000人超で地域は29(中国、香港、マカオ、台湾を含む)であったのに比べ、10倍以上に拡大している。

今回は17年前に比べ移動人口が大きく増えていることに加え、そこに2週間前後の潜伏期間が重なり、各地域で時間差を以て発症例が増加している。
1月の武漢から始まった各都市封鎖が効果を示し、この数日発症者数は二けた前半でそのほとんどが武漢に集約された状態となっている。

北京、上海では市外からの検問等で監視は緩めず、国内航空便は減少運行しているものの、高速道路の検問レーンを増やすなど流入者数は増え始めている。中国国内では、一部には安心感も出始めている中、日本を含む各国が防疫対応に追われる状況に変化した。

「感染国」である日本などからの入国者は14日間隔離、または住居から外出自粛(禁止)が必要だ。また、日本人に対するビザの免除措置を一部停止とした。

 

QRで行動を管理

コンビニでQRコードを読み取る

中国は、消費者の行動が把握できるように拡散ルートの抑え込みを行っている。

邦人含め上海居住の方々は、アプリで本人登録すると、登録QR上に本人が上海市に入り14日間経過したか否かの色表示が出る。(緑が14日経過、黄は観察中、赤は陽性、疑似)
建物や施設の入り口にあるQRを読み込んだ際、黄、赤であれば入場できない。

筆者の知人たちをみても、「プライバシー侵害」との抵抗感は意外に無く、「安全管理の施策」と割り切っている様子だ。

変わるライフスタイル 「宅経済」

地図 中国

2020年は、消費の中心が90后(1990年以降に生まれた新世代)から00后へ交代すると予想されていた。大都市の晩婚化と中都市でも「996」(9時から21時まで、週6日。激務の意味)が常態化し、一人用、夕食から夜食化への外食対応が必要となる、との見方があった。しかし、新型コロナの影響で、予想とは明らかに違う展開となっている。

実際、移動制限・封鎖の1ヵ月半で、中国のライフスタイルに変化が起きている。

①在宅勤務(テレワーク)

②オンライン購買比率の上昇
③住居内食事比率の上昇

この三つの変化は、コロナウイルスの感染がたとえ収束しても、続いていくとみられる。

対応迫られるサービス業

中国のサービス業がこうした変化にどう対応しているのか、まとめてみた。

家庭内滞在時間:在宅勤務、交代出社となり児童、学生も休校のため家族が共に家庭で過ごす時間が圧倒的に増えている。

購買:食品、医薬品を含む日用品購買が中心。

食事:多数外食店休業、ショッピングモール時短営業、感染懸念もあり、テークアウト、ケータリング。(中食)更に生鮮食品を購買、調理(内食)。いずれも家庭内消費。

余暇:オンラインによるゲーム、視聴、SNS送受信に加えて家庭内調理

スーパー、コンビニなど、外出しての購買も可能だが「宅経済」との単語が出るように食品、及びそれ以外もEC購買へシフトしている。

外食産業、推定5000億元の損失

北京レストラン

企業数が350万以上と言われる外食産業の損失と対応が特徴的だ。

中国の国家統計局によると2019年1~2月小売消費総額は、前年比+8.2% 66,064億元(102.4兆円)。うちECは13,983億元(21.7兆円)(小売消費全体の21.1%)前年比+13.6%。外食の売上は7,251億元(11.3兆円)前年比+9.7%。19年通年の外食売上額が46,721億元(72.5兆円)。

中国の小売、外食はかなりの巨大市場と分かる。

2020年同外食売上は前年比+9%の予測であった。19年1~2月は通年の15.5%を占めており、20年も期待されていたが、外食業界全体での損失は5,000億元(7.8兆円)と推測されている。

家庭での調理拡大 ミールキット強化する外食産業

鍋

飲食店は、春節前後の予約がキャンセルされ、休業時も従業員への給与、固定費の負担を強いられる。店内での飲食が制限される中、テイクアウト、ケータリングにシフトしている。
たとえば、火鍋最大手「海底撈」は少人数鍋メニューを、ケータリング用に開発販売するなどシフトを強化している。

また、大手外食チェーンは自社メニューの半製品(ミールキット)をECで販売する取り組みを進めている。従来大手は自社ブランドを付けたインスタント食品の小売販売は行っていたが、家庭内調理ニーズの増加に対応し、生鮮ECプラットフォーム企業と組み、拡販に取り組んでいる。

背景は、コロナの影響による在宅勤務で、家庭での調理時間が取れるようになったことが挙げられる。フレッシュ感ある食事へのニーズが広まり、今後外食ブランドのリテール製品、半製品(ミールキット)開発はセントラルキッチン保有の外食企業を中心に続いてゆく。

また食品メーカーとの提携により、セントラルキッチン保有していない外食企業のリテール食品への進出も増えると見る。

「ニューリテール」で生鮮ECも拡大

マスクして注意書き

生鮮を扱うEC業も活性化している。従来型の市場からスーパー、専門店での購買が一般的であったが、オンラインとオフラインの融合による「ニューリテール」(新小売)が提唱された2016年以降、アリババ、JD、蘇寧など大手からスタートアップ企業までこぞって参画し、展開が進んだ。

特に、アリババ集団の「フ―マー」(盒馬鮮生)はリアル店舗とオンラインの融合で生鮮ECビジネスを牽引している。

生鮮は、通常の食品より賞味期限が短く、温度管理も必要であるなどECにはハードルが高い。消費者も、店頭で自らの目で商品を選びたいという気持ちも根強い。
しかし、この2月はJDの売上高が、前年同月比215%増と公表したように、各社大幅な拡大を見せている。

一方で、外食産業の一部が、素材となる野菜、果実などの小売も行っている例も出てきている。店舗の多角利用である。

ガソリンスタンド、コンビニも生鮮に参入

中国コンビニ最大手、中国石油化学(シノペック)グループの「Easy Joy」 (易捷)(約27,000店舗 中国全体約13万店舗)も、生鮮品取扱いを開始した。ガソリンスタンド併設型コンビニ店舗で、2,000万人/日の来店者に非石油の購買を促す目的だ。

「Easy Joy」は、「luckin coffee」(2019年にスターバックス店舗数を抜いた中国のコーヒー店)と提携。昨年、自社ブランドカフェを店内開設している。ECで発注したものを、給油時に自動車に積み込む仕組みだ。

配送員との接触をしないサービスをアピールすると共に、一部地域で「フ―マー」と提携し、フ―マーのオンライン購買品をEasy Joy店頭で受け取り可能にした。

変わる経済動向

経済動向

前回、中国発の経済ダメージを避けるためにも、各国協調の取組が必要と記載したが、防疫措置は各国そろわぬまま、拡散が続いている。
中国では現在まで発症した都市数は337(全体数672)、感染者保有都市数はまだ104であり、収束へ向かう制限措置は一部緩和しつつ継続される。発症例、地域が大きく減少している中国で、投資活動も再開し、上海深セン株式指数は武漢封鎖前1月22日に各3,060.75/ 1,903.49春節明け2月3日に各 2,746.61/ 1,683.17と安値からはじまり1カ月後の3月5日に3,071.68/ 2,018.82と武漢封鎖前を超えるレベルに戻した。

しかし、各国の拡散による経済懸念から連鎖的に上海・深セン市場は下落。世界のサプライチェーンが中国から崩れている中、これからは世界のマーケット(ユーザー)の変調がいつ収まるのかが重要となり中国のサプライチェーンが正常化してもマーケットが対応できない、という事態になりかねない。

世界の株式市場大幅下落の中,3月10日に習近平主席が武漢を訪問した。感染収束による経済活動懸念払拭を印象付ける目的と見える。

中国政府の経済政策は?

上海夜景

2008年リーマン・ショック時には4兆元(約64兆円)の政府資金を投じ、経済危機をしのいだが今回はどうか。
中国政府は武漢封鎖直後、金融支援策を打ち出した。企業活動の停止、資金難を予想しており、経済拡大が必要であっても本疾病の危険性を重視していたためと考える。

春節中の2月1日から中旬まで国家開発銀行、中国農業発展銀行など金融機関が合計3,500億元(5.4兆円)緊急融資を、同3日と 4日に人民銀行は合計1.7兆元(26.4兆円)を金融市場に供給しその後もコロナ対策企業、医療機関、影響による資金需要の企業への貸出を積極的に行うとしている。

疾病と経済両面対策が必至の共産党にすれば、リーマンのようなインフラ投資の発表は人の移動も伴うため控えざるを得ず、事業者、労働者の不安感を抑えるために今後も金融支援は続けながら、コロナの収束を急いでいる。

既に1~2月での企業倒産数は750件(人民法院発表)と19年を大きく上回り、2月倒産企業の約45%が登録資本金1,000万元(1.6億円)以下。零細企業、個人業主は家賃免除等の活動を拡大させる傾向も出ているだけに、商業活動の再開見通しが必要だ。

2月のCPI(消費者物価指数)が前年比+5.4%と1月同様高いレベルだが、交通費、アパレル等は前年比マイナスであり、豚肉価格の高騰と交通規制による物流コスト上昇でも食品の買い溜めが数値を押し上げた形と言える。PPI(生産者物価指数)は生産活動の遅延が大きく−0.4%にて3月も上昇は難しいと見る。生産が追い付かず消費が進めばインフレに繋がっていくため、資金供給以外に生産体系の回復と物流コスト抑制が必要な局面だ。

これからの見通し

もし、中国がコロナウイルス収束宣言を4月に出すことができたら、と仮定する。

繰り返しになるが、航空便を含む公共交通手段が増え、ショッピングモール、集会が再開したとしても、下記の動きは続くとみられる。

①在宅勤務(テレワーク)
②オンライン購買比率の上昇

③住居内食事比率の上昇

これに関連してWIFI環境とデバイスの改善、モバイル5G普及加速=関連設備、デバイス製造増強、小売りのEC企業への集中と反発する企業の動きが加速すると考える。
今回、ライフラインを途絶えさせぬ為、医薬品、食品類の地域間輸送の許可及び同関連とインフラ関連製造業はいち早く稼働再開を許可した。また、人が伝染病を媒介する事から、労働集約型が多く残る食品企業も自動化、そしてフードロスを削減する上で冷凍食品等保存性ある製品への切り替えも進むと考えられる。

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