料理宅配(デリバリー)の大問題

私は、料理宅配(デリバリー)を使わない。ビジネスモデルに深刻な問題を内包しているからだ。料理宅配業者の多くは赤字で、十分な税金を払っていない。道路など公共財の税負担だけでなく、配達員の交通事故リスクという側面からも、二重のFree Ride(タダ乗り)をしている。それでも赤字続きの料理宅配業界に、健全な発展は可能なのだろうか?

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ビジネスモデルとして成立していない

ビジネスモデルとして成立していない

筆者は、料理宅配(いわゆる「デリバリー」)を使わない。ビジネスアワーでも、プライベートでも、使わない。事前注文してレストランまで自ら受け取りに赴くことはある。

第三者に依頼し、バイクや自転車などで料理をオフィスや自宅まで運んでもらう。この“料理宅配”という事業は問題が多く、ビジネスモデルとして成立していない。

この業界は未上場会社が多く、正確な業績数字は掴めない。だだ、数少ない上場企業の状況や、外資系企業の日本撤退のニュースを見る限り、業界全体として芳しくはなさそうだ。

赤字続きの出前館、撤退相次ぐ外資

東証に上場している出前館は赤字続きだ。同社の営業赤字額は、21年8月期の179億円から、22年8月期予想では500-550億円を見込んでいる。
▼参考
DEMAEKAN 2022年8月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
DEMAEKAN 2021年8月期決算短信〔日本基準〕(連結)

中国・滴滴出行は、日本での料理宅配事業を2022年5月末で終了する。「フードパンダ」を展開する独・デリバリーヒーローは既に2022年1月に日本から撤退した。

デリバリーの不振は日本だけではない

料理宅配企業の業績不振は、日本だけではない。

22年4月20日の日本経済新聞は『料理宅配は稼げるビジネスか 印ゾマトが問う難題』という記事を配信している。

同記事によると、インドの料理宅配ゾマトは創業来13年間、償却前営業収支が赤字だ。米国の同業ドアダッシュも、2020年12月の上場来1度も最終黒字を出していない。

配車と宅配の両方を運営する企業も苦戦中だ。シンガポールのグラブは黒字化の目途が立っていない。中国・滴滴出行も2021年度約1兆円の最終赤字となった。

十分な税金を支払わない構造

十分な税金を支払わない構造

料理宅配を運営する企業の多くは、赤字続きだ。筆者自身は世界の税制に詳しくないが、赤字企業なのだから彼らは十分な税金を支払っていないと推測される。

料理宅配には道路など公共財が不可欠だ。公共財の建設・補修は、受益者による税負担によって成立する。十分な税負担をしていない料理宅配企業はFree Ride(タダ乗り)している。

新たな外形標準課税の必要性

赤字企業の税金未納を防ぐため、我が国では2004年に外形標準課税が導入された。これは利益の多寡ではなく、資本金等の額および従業員への支払い給与など付加価値額をベースにした課税だ。

問題は、外形標準課税の対象が資本金1億円超の大企業という事だ。近年、上場企業でも資本金を1億円以下に減資する例が少なくない。税制優遇を得ようという算段だろう。

料理宅配の安定的供給には、公共財(道路や橋梁など)の建設や維持が欠かせない。宅配員の登録人数、宅配の注文数など、利益の多寡ではない指標をベースに、料理宅配企業に対して新たな基準での外形標準課税が必要なのではなかろうか。

料理宅配の生み出す外部不経済や社会的費用

1974年、東京大学経済学部教授の宇沢弘文氏は『自動車の社会的費用(岩波新書)』を発表した。宇沢氏はこの本で、自動車による排ガス・公害問題に加え、市民の安全な歩行を守る「シビル・ミニマム」(都市住民の最低限の生活環境基準)という考え方を提示した。

配達員は自己の時間を使い(自己の時間を投資し)、可能な限り多くの配達料を稼ごうとして“急ぐ”。接触事故の増加は不可避だ。シビル・ミニマムの観点と、功利主義的な配達員の行動様式にはコンフリクトが存在する。

料理宅配大手は1社当たり数万~十万人の配達員を抱えている。彼らには雇用保険は適用されず、労災保険も配達員の自己負担だ。市民との接触事故の代償は、配達員にとっても大きい。

料理宅配企業は、公共財の税負担だけでなく、配達員の交通事故リスクという側面からも、Free Ride(タダ乗り)している。二重のFree Rideをしていながら事業は赤字が続いているのだ。

交通量の増加の影響

道路という公共財は一定以上に交通量が増えると、排他性問題が発生する。配達車両が増え過ぎると、ビジネスで効率良い移動を必要とするビジネスパーソンの交通阻害要因となる。歩道や路肩に放置された配達車両の存在自体も、シビル・ミニマムに抵触する。

配達員は自転車だけでなく、バイクや自家用車も使う。千円前後の料理宅配に追加的にCO2を排出する仕組みは、社会の持続性という昨今の流れとの親和性にも欠ける。

レストランにとって、デリバリーの利益貢献は少ない

レストランにとって、デリバリーの利益貢献は少ない

筆者は実際に、レストラン運営会社の役員をしている。実態を知る人間として言えば、料理宅配は宅配業者への手数料支払いが重く、レストラン自体への利益貢献は小さい。

レストラン側は、消費者への販売価格の30%前後を手数料として宅配業者に支払う。包材費も一品当たり50円くらい必要だ。厨房は忙しいが、店の実入りは小さい。

規模と外部不経済はシンクロする

ネット関連企業によくあるような「規模が全てを癒す」という構図は、同産業では当てはまらない。

規模と外部不経済はパラレルで、シンクロするからだ。

料理宅配市場の規模が小さければ、外部不経済・社会的費用(道路の混雑、シビル・ミニマム)も小さい。ゆえに、料理宅配に対する社会的な不満は限定的なものに留まる。

一方、市場規模が拡大すると、外部不経済・社会的費用も同様に大きくなる。共同体や社会との摩擦は増加し、料理宅配という事業は業界全体として社会問題化するだろう。

まとめ:配送料をいくらとれるか

料理宅配の上記論点は、食品のネットスーパーと相似形だ。一回当たりの配送に伴う付加価値金額が、広義の配達コスト(実際の配達コストと外部不経済・社会的費用の総和)を下回っているので持続可能性が乏しい。

国土の狭い日本で生活する限り、宅配に伴う外部不経済や社会的費用を大きく減じることは容易ではない。であれば、一回当たりの配送に伴う、付加価値金額の大幅な引き上げこそが、日本で料理宅配や食品のネットスーパーが成立する数少ない解であろう。

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